オタール・イオセリアーニ インタヴュー

(1999年10月、東京)


Merci au Grand Maitre Otar Iosseliani,
qui m'a permit de montrer notre interview au site de toile-ci!




  日本では『落葉』(66)『田園詩』(76)の2作が劇場公開され、一部の映画ファンに熱狂的支持を受けているオタール・イオセリアーニ監督(1934年、トビリシ生)。ゲオルギア(グルジア、*1)で長編劇映画4本を監督。80年代以降は拠点をフランスに移し、これまでに長編劇映画5本を発表しているが、日本ではまったく上映の機会がなかった。

  そのイオセリアーニ監督が、第12回東京国際映画祭で最新作『さらば、わが家』(99)が上映されるのに合わせ、初来日を遂げた。これまでの活動について、最新作について、そして現代の映画界について、朝11時からウォッカを傾けながら、滔々と話す姿は、「現代の巨匠」と呼ぶにふさわしい風格と知性、そして余裕を漂わせていた。


「映画のための映画」は撮らない


  ソ連時代の「歌うつぐみ」(70)、西側で発表した「月のお気に入り(Les favorits de la lune)」(84)「そして光があった(Et la lumi俊e fut)」(88)「蝶々狩り(La chasse aux papilloins)」(92)「詐欺師たち、第7章(Brigands, Chapitre VII)」(96)と、イオセリア ーニの作品陣は、多数の登場人物が交錯しながら、複数の物語を繰り広げてゆくコメディが多い。『田園詩』のユートピア的ポエジーの世界は、彼の作品では例外なのかもしれない。

 「ソ連時代は、T社会主義リアリズムに反するUという理由で、製作の機会をあまり与えられなかった。80年代に入り、フランスのテレビ局、アンテヌ2からドキュメンタリー番組の監督依頼を受け渡仏して、続けて「月のお気に入り」を撮ることになった」

 「月のお気に入り」は、古き良きヨーロッパの手作り陶器の運命をたどりながら、マテリアリズムや拝金主義をシニカルに描いたコメディ。彼の作品のなかでは視線が冷ややかなところが異色である。

 「私が「月のお気に入り」をソ連で撮るつもりだったからだろう。官僚制やマテリアリズム、マフィアの暗躍などは、ソ連の現実だ。私はどこの国で、どこの資本で作ろうと、作品の内容を変えることはしない。次の「そして光があった」も、モスクワの物質文明が、ゲオルギアののどかな田舎を狂わせる話として構想していたが、西側で作ることになったので、舞台をアフリカに移したんだ」

  タルコフスキイとは違い、イオセリアーニはソ連時代も西側に亡命はしていない。「月のお気に入り」完成後も、ゲオルギアとフランスを行き来している。

 「ブレジネフ時代、映画はプロパガンダの道具として重要視され、国家も多額の予算をまわしていた。ところがペレストロイカの時代になり、予算が大幅に削られてしまった。80年代半ば以降、ゲオルギア・フィルムも開店休業状態。結果としてフランスなどの資本で映画を作り続けることになった」

 「私は「詐欺師たち、第7章」と、テレビ番組「ゲオルギアだけが(Seule G姉rgie)」( *2)を、母国で撮っているが、共に西側資本だ」

  80年代後半以降、監督は「フランスでもソ連同様の問題にぶつかった」という。

 「現実と無関係な映画を作ることに関心はない。現実を扱いながら、ノンシャランなユーモアを失わない作品にしたいと思っている。

 「しかし社会主義リアリズムというのは非現実的な、"存在しない理想的ソ連社会"を描くことをよしとしていた。フランスでも『プロヴァンスの夏』シリーズに代表される、マルセル・パニョルの映画化のように"存在しない理想的フランス"が求められるようになってきた。かつてクレールやタチが描いたように、現実のフランスを描いた映画は稀だ」

 「そして90年代のグローバリゼーションにより、映画産業はますます柳の下のドジョウばかりを狙っている。一方で、人々は身の回りのとても小さなサークルの中に閉じこもるようになった。そこから生まれる映画は、とても小さなものだ。たとえば『憎しみ』は、とても良い映画だが、イタリアのネオ・レアリスモや、大島渚の映画に似ている。描かれるのは"自分たちの現実"で、広がりがない。現代に『市民ケーン』や『タバコ・ロード』のような作品が誕生する余地があるとは、残念ながら思えない」


"Adieu"という言葉にこめらたもの


  このように現代の映画状況に鋭い批判を向けるイオセリアーニの最新作、『さらば、わが家』は、抱腹絶倒のコメディだ。

  パリ郊外の城のような屋敷に住む、ゲオルギア系フランス人一家。毎晩のようにパーティを開くブルジョワ趣味の裏で、母親はマフィアの闇商いのボス、息子はバイトをクビになりコソ泥と物乞いに明け暮れる。そこに絡むアラブ・アフロ・ラテン系移民たちに失業者、休日だけ金持ちを装う掃除人……いろんな階層のいろんな人々が入り乱れ、ロンドを繰り広げるように、時にはトボケた、時にはブラックな笑いが全編に展開される。

  ひとつひとつの登場人物、エピソードがしりとりのように流麗につながってゆき、大爆笑しながら、様々な感情を抱かせる、豊かな映画である。

  独特の流麗さの秘密は、長回しショットの多用にある。1時間58分の映画で、全163カットしかないという。

  そんな作法について筆者が「ひょっとして、クレールの『リラの門』の……」と言い掛けると、

 「窓越しの子どもたちのワン・ショットだろ? そう。あれなんだ」

  と我が意を得たり、とばかりの返事が戻ってきた。

  多くのトラベリングを伴う長回しを緻密に実現するために、イオセリアーニは、ソ連時代から、全カットについて細かいストーリー・ボードを作成する。ヒチコックや黒澤の絵コンテとは異なり、カメラの動きと装置や俳優のポジションを明示したものだ。

 「今回はダイアローグを書き上げてから、一カ月半かけてストーリー・ボードを作成した。撮影の前にスタッフに渡し、装置や撮影監督に準備してもらう。俳優には当日、現場で撮る場面のストーリー・ボードにセリフを書き込んで渡す。シナリオ全体を渡すことはしない。順撮りをするわけではないが、自分の役が最後に死ぬ、と最初から分かっていたら、俳優は死を予感させる芝居をしようと意識してしまう。それを避けるためだ」

  このストーリー・ボード方式は、早撮り目的で編み出したという。

 「ソ連では映画の撮影には半年近くかけるのが普通。その間、全ソ国家映画委員会の連中がモスクワから来て、ラッシュ・フィルムを見てあれこれ難癖をつけ、脚本の手直しや再撮影を指示してくる。幸いゲオルギアはモスクワから遠いので、そうしょっちゅう役人は来ない。だから2ヵ月ほどで撮影を上げ、役人が来た頃には「撮影? ああ、もう終わってますよ」と言い放ってた。こうして、内容に口出しされるのを防いだんだ。それが西側に来てからは「2ヵ月で終わります。だから製作費は安上がりですよ」とプロデューサを説得する切札になった。皮肉な話だがね(笑)」

  この映画には監督自ら、一家の父親役で出演。キートンのような味わいを出している。

 「西側で撮った作品に出ているゲオルギア人は、全員西側在住の亡命者や移民や、その二世・三世だ。今回は父親役にふさわしい、歌えて人間臭さのある、ゲオルギア系の役者が見つからず、止むなく自分で出たが、もう懲り懲りだ。カメラの位置を気にして、演技を付けながら自分も演じるなんて! チャップリンはラッシュを見て、自分の納得ゆくまで何十回も撮り直したというか、私には堪えられない」

  実は筆者は「月のお気に入り」のシニズム、「蝶々狩り」のノスタルジーとペシミズムを知る者として、新作の原題が"Adieu, plancher des vaches"と聞いて、ある種の恐れを抱いていた。なにせ"Adieu" である。イオセリアーニは世界に「訣別」の言葉を、告げるつもりなのか? と。

  結果は正反対。これまでにない解放感と希望に満ち、くちびるに歌をもち、未来へと開かれてゆくラストに、すがすがしい感銘を受けた。

 「こんな時代、誰しも世の中に"Adieu" と言いたくなるときがあると思う。だが"Adieu" と口にする瞬間、わずかな喜びと希望に心を満ちてくる。ノンシャランに、微笑みをもって、心が通い合う友人と共に、人生を堪えられるように、人々がそれぞれの道に歩み出せる。そんな思いをこの題名に込めたんだ。心配するな。次回作はすでに構想中だよ」


 「いつの日か、人間性が勝利する日がくる」と、自信をもって語るイオセリアーニ監督。おもしろうて、やがて……の世界が、一日も早く、日本でも本格的に紹介される日が来ることを、願って止まない。

(1999年10月31日、東京・東急イン渋谷にて。インタヴューはフランス語で行なわれた)

*1 「グルジア」は「ゲオルギア」のロシア発音。「ソ連が消えた現在、「ゲオルギア」と表記してほしい」という監督の意向に、この記事では従った。
*2 94年、独仏共同出資のテレビ局、ARTE製作。


[『キネマ旬報』2000年1月上旬号]
 

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